6月に入って最初の仕事は蕗の佃煮「きゃらぶき」造りです。祖母が煮ていた記憶を辿っての初めての挑戦からはや10年……今では「私の十八番」と胸を張れるようになりました。
まずは半日、敷地内の蕗を採り続けます。普通の蕗の煮物と違って、きゃらぶきには細めの蕗がおすすめ。太い蕗を煮るとふっくらもっくらした食感ですが、細さゆえにきゃらぶきのキュキュっとした独特の食感が出るのでしょう。
半日かけ採った蕗を半日かけて切り、熱湯を注いでそのまま一晩置きます。理想的な蕗の長さは4.5センチ。「長いと間抜け、短いとみすぼらしい」と言われ修業時代は物差しを当てて切らされたものです。
2日目、一晩湯にさらした蕗をザルにあげ、いよいよ煮始めます。たっぷりの酒に醤油と砂糖を入れ中火にかけて……火をつけたり消したりを繰り返し、かさ(体積)が2割くらい減ったあたりで今日はおしまいです。
3日目も再び火をつけたり消したりを繰り返し、4日目からはそろそろ仕上げに入ります。きゃらぶきの美しさは、なんといっても漆黒ブラック✨祖母が使っていた錆び釘をガーゼで包み鍋に投入し着火‥‥不思議なもので茶色かった蕗が黒味を帯びてきます。
5日目、いよいよ味付けの仕上げです。蜂蜜と味醂を足し、味をみて醤油も足します。ちょうど良い甘辛を目指して慎重にね。
蕗や蕨(わらび)は火を加えてあるところを越すと、急に細くなってしまいます。強火で一気に煮ようとすると、味は染みていないのに細い藁(わら)のようになってしまうので要注意。まさに「せいては事を損じる」です。今年の新たな試みは「火にかける時間を極力減らす」。その代わりに火をつけたり消したり30回以上繰り返したでしょうか。目論見は大成功でした。
「レシピを教えて」「教室で習いたい」とリクエストをいただくのですが、分量は様子を見ながらの感覚的、日数がかかるので講習には不向き…なんとか、このホームページの「伝え継ぎたいレシピ」には入れたいと思います。
さてさて、労作を肴に慰労の一杯を。朝晩はまだ肌寒い信州、やわらかなぬる燗が染みます。晩酌のお供にちょうど手にとった俳句の本で、きゃらぶきは夏の季語だと知りました。
伽羅蕗を煮返す妻や今日も雨 増田龍雨